風太くん

大学に入学して2ヶ月。

 

私は浮かれていた。

 

外見はそこそこ美人枠なので

 

大学に入ったとたんに色んな男性から声をかけられた。

 

もちろんただの浮わついたナンパや

 

サークル勧誘のための声かけもあったが

 

中には本当に告白されたものもあった。

 

頻度にして1週間に1回。

 

色んな人から告白された。

 

のんちゃんは

「出会ってすぐ告白してくるなんて、外見しか見てないの?」

と、すぐに告白してくる神経が信じられなかった。

 

こころちゃんは

「さすが私♡モテモテ~♡」と浮かれ

まるで大学にいる全員が私に興味があるような素振りをみせていた。

 

私はのんちゃんの意見に賛成し

 

すぐに付き合うようなことはしなかったが

 

こころちゃんの浮かれっぷりにも賛同し

 

どうせならこのままモテ記録をつくってしまおうと

 

色んな人にいい顔をして、色んな人からちやほやされていた。

 

 

 

その中に、風太くんという男の子がいた。

 

言い方は悪いが、見た目は冴えない感じ。

 

THE男子高生といった雰囲気で

 

女の人と付き合ったことないんだろうな、と勝手に想像していた。

 

風太くんとは、何かのサークルの新歓コンパで知り合い

 

すぐに連絡先を聞かれ、交換した。

 

何度かLINEのやり取りをして

 

すぐに告白をされた。

 

付き合う気はなかったけど、

 

こころちゃんから

「どうせなら、もうちょっとちやほやされたい!」

と要望があり

 

『出会ったばかりで風太くんのことよく知らないし、そんな目で見たことないから、今はよく分からない』

 

断りつつもその気がないわけじゃない、という返事をした。

 

いわゆるキープ。

 

当然、もう少し仲を深めよう!と、更なるアプローチがあった。

 

それは私が仕向けたようなもの。

 

なのにこころちゃんは

「これをアッキーに相談して、アッキーとの仲を深めよう!」

と、恐ろしいことを考えていた。

 

 

 

アッキーに、相談したいことがある、と連絡をしたら

 

すぐにご飯に行こう、という話になった。

 

相談内容は

・出会ってすぐに告白されてしまう

・断っても誘われて、困っている

・私って軽い女に見えるのかな…

 

ポイントは

・色んな男性からアプローチがあるとアピールし、私の価値をあげる

・でも私はすぐに人を好きになるような子じゃないと分かってもらう

・軽い女に見られて傷ついている。私は軽くないのに…と分かってもらう

 

こころちゃんの作戦は完ぺき。

 

これで、この子はいい子だ!と分かってもらえて

 

しかも色んな男の人に狙われてるなら早く告白しないと!と焦らせることができる。

 

アッキーとの距離は縮まり、アッキーと付き合うことができる!

 

そんな作戦だった。

 

 

 

2人でご飯はミニスカートにちょっと胸元のあいたTシャツ。

 

食欲のないフリをしながら、あっさり系のパスタを注文し

 

フォークの手を止めては一点をみつめ、話をしようと深呼吸。

 

でもやっぱり勇気がない、と肩を下ろしてご飯を食べて

 

話そうとして深呼吸

 

肩を下ろしてご飯を食べて

 

話そうとして

 

ご飯を食べて

 

そんな演技を一通りすませた後

 

言いにくそうに話をし始めた。

 

「実は、最近告白してくる人が多くて…」

 

「もちろん、告白してくれるのは嬉しいんだけど…」

 

「出会って間もないのにそんなこと言われると

この人外見しか見てないのかな?

私って軽く見えるのかな?

って心配になって…」

 

「ねぇ、私って、軽い女に見えますか?」

 

こんなこと言われたらNOと言うしかない。

 

アッキーには誘導尋問のような相談会が始まった。

 

もちろんNOと言ってくれ、私はほっと笑顔になった。

 

「よかった…アッキーにまでそんな風に見られてなくて…」

 

「中には、断っても連絡とか、ご飯に誘ってくる人もいて、

私、どうしたらいいのか…」

 

ここまでは簡単だった。

 

こころちゃんの考えたシナリオ通りにセリフを並べるだけだった。

 

しかし、ここからだった。

 

アッキーは

 

「自分はどうしたいの?」と尋ねてきた。

 

え…

 

「嫌なら断るしかないよ」

 

 

「付き合う気がないなら、ハッキリ言いなよ」

 

 

 

こころちゃんのシナリオだと

 

「モテるんやね~」って焦ってくれて

「でもその人たちの気持ち分かるわ~」って同意してくれて

なんなら俺も好き、くらいのことが伝わってきて

「またいつでも相談して!」って次につながるはずだった。

 

完全に、客観的な意見を述べてくれる相談会になった。

 

困った。

 

どうしたい、って言われても

 

どうもしたくない。

 

このちやほやを楽しんでいて

 

それに便乗して相談という名のご飯に行きたかっただけ。

 

こちらのペースに戻そうとしたがうまくできず

 

焦らせるはずが、私が焦る会となった。

 

結局、もちろんアッキーといい感じにはならず

 

とにかくこの腹黒がばれないように振るまうので精一杯だった。

 

予想外の受け答えとなったため

 

演技ではなくフォークの手はとまり

 

パスタはみるみるカチカチに固まって、食べられなくなってしまった。

 

 

 

かけひきなんて、するもんじゃない。

 

私の想いを、私の言葉で伝えなきゃダメだった。

 

1人の人と付き合いたいなら

 

1人の人しか見ちゃダメだった。

 

それでも私はまだアッキーを諦められなかった。

 

帰り際の「またね」という一言に望みをかけ

 

こころちゃんは次なる作戦を考えていた。